本文へジャンプ 2004年4月5日更新 

 

公表するという意味

 粉飾の定義のところで『公表』というキーワードを掲げましたが、ここでいう『公表』というのは、決算書の作成責任を有しない相手に見せる、という意味で、必ずしも有価証券報告書や営業報告書の提出のみをさしているわけではありません。
 新規取引に際して決算書の提出を求める企業もありますし、金融機関は当然に融資の稟議に決算数値を添付します。行政機関も取引の際に決算書の提出を求めることがあります。
 ここでは、粉飾した決算書をどこに出したらどういった罪になるか、検討してみます。

違法配当罪

 違法配当罪は、商法第489条第1項第3号に規定されているもので、配当可能限度額を超えて期末配当ないし中間配当の決議を行い、配当を支払った場合に適用されます。配当可能限度額というのは決算書から導き出される計算上の金額ですから、きちんと配当決議を行う会社が故意に決算書の数値を無視して配当を行うなどというのは考えられません。すなわち違法配当は原則として粉飾決算を前提とします。どんな会社でも違法配当は行い得るのですが、捜査に非常に手数がかかる関係からか、、大きな会社以外では検挙事例がありません。
 経営陣が自分の持ち株に対する配当を期待して違法配当を行った場合には、商法第486条第1項に規定する特別背任罪が成立するという判例があるのですが、この辺は捜査機関に属する人以外、関係ありません。
 配当可能利益というのは、以前は基本的に留保利益であったわけで、この点から実質的に評価益の計上となるケースを粉飾と認定できたのですが、商法の改正によりその区分はあいまいになってきています。実際にどのようなケースを粉飾と認定するのか、今後の動向を注目したいと思います。準サイズの文字がここにはいります。
標準サイズの文字がここにはいります。

有価証券報告書の虚偽記載

証券取引法第197条第1項(ものすごく読みにくい条文です)では、有価証券報告書の重要な事項について虚偽の記載のあるものを提出した場合についての罰則を設けています。違法配当罪が成立するケースが、ここで言う重要な事項に該当する、ということについては争いがありません(こういうケースを観念的競合といいます)。元から無配の場合はどうするのか、といえば、ケースバイケースとしか言いようがありません。
 そもそも有価証券報告書を提出している会社以外、成立する余地はありません。


詐欺

 粉飾した決算書を見せて、必ず返します、といってお金を借りて、返せなかった場合、詐欺罪が成立する恐れがあると考えてください。詐欺罪は、『人を欺いて財物を交付させたもの』を罰するものです。欺く、ということについてはいろいろ議論があるのですが、粉飾した決算書は人をだます行為の動かぬ証拠となります。
 銀行が貸し倒れが発生した際にいつも詐欺で訴えるかといえば、いろいろ事情があって、殆ど訴えることはありません。ただ、相手先が一般会社で、特別の担保を取っていないケースでは、訴えられるケースは多くあります。


その他

 会社以外の公益法人等(学校法人、社会福祉法人、協同組合など)は、各々法律に基づいて行政機関に決算数値を報告します。これについて虚偽の数値を報告した場合にもそれぞれ罰則が規定されていますが、殆どが科料のみです。


罰則がなければ粉飾をしてもいのか?

 当たり前のことですが、ダメです。
 というよりも、粉飾の利害得失を考えて見たとき、粉飾が発覚した場合には、例えば保証協会の保証つき融資は2度と受けられない、行政からの受注は2度と受けられない、といったダメージがあります。一度失った信用を取り戻す機会は、特に行政関連では、新会社でも起こす以外、2度と訪れません。
 ある一時期粉飾決算を行い、徐々に正常に戻していったケースは現在ではまれで、結局破綻に至ケースが殆どです。金融機関に窮状を訴えるにも、先ず粉飾の事実を告白しなければなりません。結果スタート時点でマイナスの信用を背負うことになります。
 粉飾を是とするわけではありませんが、上場企業の場合には企業維持のために粉飾に走るのも分かるのです。しかしその他の企業では、粉飾の金銭的、あるいは心理的コスト、粉飾発覚の際のデメリットを考えた場合、実際のところあまり粉飾をやる意味はない筈です。
 にもかかわらず粉飾に走ってしまうのは
       民間・行政の形式に堕した審査
       関係者による無責任な指導・助言
にも原因があります。
 それが今後変わっていくのか、といえばなんともいえません。「リレーションシップバンキングの機能強化にかかるアクションプラン」や「金融検査マニュアル別冊―中小企業融資編」の公表等で、金融機関のスタンスは若干変わりつつあるのではないかとは思います。


一応、今後の動向について

 商法改正試案において、電子開示制度や中小株式会社に『会計参与』という制度を導入する方向が示されています。これについては項を改めて触れることとしますが、大会社だけでなく、中小会社にも決算書類の開示と信頼性を担保する制度が整備されていきます。開示された決算書を取り巻く利害関係者もより多くなり、粉飾が発覚した際のダメージもこれまで以上に大きくなることが予想されます。

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