本文へジャンプ 2004年4月5日更新 

 

粉飾を見抜く、とは

利用者はどこまで粉飾を見抜けばよいのか

 粉飾を見抜く、というのはどういう意味か?
 実は利用者によってその意味は違うのではないかと思います。一般投資家であれば、公表財務諸表の中から粉飾の兆候を発見し、投資意思決定に役立てるだけで十分な筈ですし、行政や通常の取引先の場合は、役務の安定供給が可能かどうか、という観点で粉飾の有無を検討すればいい、ということになります。厳しい立場に立つのは、融資を行う金融機関などの場合です。決算書の粉飾を見抜けなかった場合には、債権の回収が不可能になる危険性があります。
 一方で粉飾でないものを粉飾と認定した場合には、逆に本来得られるべき便益を受けられないことになりますから、ビジネスとして考えた場合、粉飾のリスクを許容するケースもあります。

対象会社
との関係
リスク 粉飾と判断した
場合の対応
 
対応により
失われる利益
 
一言
投資先 投資損失 株を買わない  値上がり益を
得られない
 
君子危うきに近寄らず
通常の
取引先
 
貸倒  取引をしない  良質な商品・サービスを
得られない
 
人間万事塞翁が馬
融資先  貸倒 融資をしない  利息収入が得られない 虎穴にいらずんば虎児を得ず


 投資家が粉飾の兆候を発見した場合には、単にその会社の株式を購入しないだけでよいのです。たとえその会社の株式が値上がりしても、少し悔しい思いをするだけです。
 一方通常の取引先の場合には、一般的には粉飾しているかどうかはあまり問題にはなりません。しかし貸倒が発生したりすれば当然責任問題が発生しますので、危険性の有無程度は把握しておかなければなりません。
 融資先の場合、問題はリスクとリターンのアンバランスにあります。経験的に言って、十分に担保により保全されている場合、金融機関が粉飾決算書をそのまま受け入れているケースはしばしばありましたが、それは保全によりリスクを回避しているからであろうと思います。しかし昨今は
   @担保処分による債権の回収には労力と時間がかかる
   A融資先の倒産の場合、金融検査において審査体制等について指摘を
    受けることになる
   B信用保証協会の保証つき融資の貸倒の際、粉飾した決算書が提出
    されているケースが多い
といった点から、厳しい目で見るようになってきています。

情報量と分析能力

 粉飾を見抜けるかどうかは、利用者の持つ情報量と分析力に依存します。大雑把に言えば、総合的な判断力は情報量と分析力を掛け合わせたものといえます。従って、粉飾を見抜くためには
    @できるだけたくさんの情報を集める
    A分析能力を磨く
ことが必要です。
 では、実際に十分な分析力と情報量があれば粉飾を見抜けるかといえば、せいぜい下の図の程度です。
 決算書を見て確実に『これは粉飾だ』と結論付けることができるのは、簿記の仕組みを逸脱してしまっているために発覚するケースのみです。凝った粉飾の場合は、決算書以外の資料を仔細に分析しない限り粉飾と結論付けることはできません。

分析力
情報量 粉飾かも知れないゾ なんか変だな
なんか怪しいな ???



簿記の仕組みを逸脱してしまっているために発覚するケース

 これがどういうケースかといえば、簡単に言えば
     貸借が合わない
     貸借対照表と損益計算書がつながらない
といった非常に原始的なケースです。少しレベルが上がると(最低限のつじつまは合っている、ということです)、一目で粉飾を見抜くというのは難しくなりますが、キャッシュフロー計算書を作ってみると、大体ボロがでます。
 こういった場合は相手にキチンと指摘することが大事で、それにより以後の粉飾を防ぐことができます。


きれいにつじつまがあっている場合

 現場では2種類以上の粉飾決算書を作成しているケースがありますが、私は税務申告書に添付された決算書をベースに作業をしていました。申告書に添付された決算書は、普通は会計帳簿とつながっています。会社は調査権のある税務署に嘘はつけないと思っているからです。
 申告書に添付された決算書を入手するのが最低限の注意です。最近は金融機関も申告書と決算数値のつながりを確認するようになってきています。


経営分析

 経営分析だけで粉飾の確たる証拠を得る事ができるかといえば、基本的にはできません。しかし、粉飾の兆候をある程度の確度で掴む事はできます。
 詳しい説明は別の機会にすることとしますが、ポイントは
    @他社比較より趨勢比較が大事
    A常識的な見方が必要
という2点です。
 会社の決算数値は、ビジネスモデルが大きく変化しない限り、毎期大きくは変わりません。また、業界全体の傾向と異なった動きはしないものです。決算書の数値を横に並べてみて、極端な変化がある勘定科目があった場合、必ず特筆すべき理由がある筈です。これを細かく分析して相手側に確認することで、粉飾が発覚することがあります。
 決算書は『会社の顔』と呼ばれることがありますが、一般的に業種により常識的な数値が計上されるものです。決算書の数値がビジネスモデルに照らして明らかにおかしいケースは放置しないことです。


ではどこを見るのか

 一番大事なのは、何のために粉飾をするのか、という点です。理屈の上ではどの勘定科目でも粉飾のために使用することができますが、実際には粉飾に使用される科目は限られています。これは
    母集団が大きく、粉飾しても目立たない
    そもそもその勘定科目をよく見せるのが粉飾の目的
という理由です。具体的には、売掛金(不良債権の発生を隠蔽する)、未成工事支出金(工事原価を圧縮するため)、借入金(金融機関のシェア維持、借入が少ないように見せかけるため)あたりになります。但し上場会社クラスの場合には、規模に応じていろいろな科目を使用します。


より詳細な資料を見ることができるのなら

 経営分析で異常な数値を発見した際、取引上の優位性を利用して会社の資料を見ることができるのであれば、粉飾を見抜ける可能性は飛躍的に高まります。
これについては一般論で説明しきれませんので、お悩みの方はメール等にてご相談ください。


粉飾しようとしている方へ

 これまでいろいろな会社の粉飾した決算書を見てきましたが、粉飾する側には確かに『やむぬやまれぬ事情』があります。粉飾決算自体を処罰する法令は先に記したとおりで、あまり重い刑罰はありません。しかし粉飾を実行する人の心理状態は、他人の迷惑を顧みない自己中心的な、まさしく犯罪者の心理状態なのです。
 粉飾しようと考える動機は、資金調達に関連するケースが多いと思いますが、例えば金融機関ごとに異なる決算書を提出したりすれば(最近は難しくなりましたが)
    信用保証協会を使いにくくなる
    協調融資、シンジケートローンが組めなくなる
    私募債の発行が難しくなる
というように、資金調達の道が狭まることになります。
 また粉飾が発覚した場合、会社の信用は一気に地に落ちることになり、公共機関との取引の継続は殆ど不可能になります。
 完全犯罪と同じで、完全粉飾というのはありえないのですが、非常に発覚しにくい粉飾は
    実際の現金の動きがある
    第三者を経由する
    粉飾の影響が長期間残らない
といった要件を満たすものです。しかしこういった粉飾を行うには手数と費用がかかる上、自社に取引上の優位性がなければ実行できません。
 当座の苦境を粉飾でごまかすことを考えるよりも、そのエネルギーを営業活動に充て、その上で会社の資産、負債を仔細に検討して貸借対照表数値の改善を図る方が建設的ですし、それで十分に状況を打開できるケースが多いのではないかと思います。できる限りのアドバイスを差し上げたいと思いますので、メール等にてご相談ください。

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