本文へジャンプ 2005年4月5日更新 

 

真実と異なる、ということ

 これは、捜査機関的にいえば粉飾の『手口』になるのですが、粉飾の手法としてよく言われるのは『資産の過大計上』『負債の過小計上』ということになります。架空売上の場合、実現していない売上にかかる売掛金が計上されます。簿外借入の場合、文字通り借入金が帳簿に記載されないことのなります。
 明白な粉飾ではない資産の過大評価、例えばすでに価値を喪失している資産を簿価のままで計上しているケースはよくありますが、これが会計基準に照らして明らかに不当である場合には、これも粉飾といっていいと思います。しかし明白な作意がなく、会計基準においても選択の余地を残している場合、それを粉飾といえるのか、ということについては、難しい問題があります。
 帳簿記録とは異なる決算書が作成されていることがありますが、これらは『粉飾』という定義に当てはまるのか、ちょっと悩むところです。
 自分が昔、警察内部向けに粉飾決算の解説を作ったときには、「大会社の場合には公認会計士が会計監査を実施しているため、帳簿記録と異なる決算書が作成されることは事実上ありえない」、と書いたのですが、事実は小節よりも奇なり、実際には公認会計士が何も監査を行わずに監査報告書を作成しており、帳簿記録と異なる決算書が公表されていたケースもありました。


架空売上について

 架空売上は粉飾決算の古典的かつ最も一般的な手法です。なぜかといえば
      売上高が伸びている企業は、市場から信頼されやすい
      母集団が大きく、発覚しにくい
といったためです。そのかわり通常1取引あたりの金額が小額であるため、必要な利益を確保するためには多くの架空売上を計上しなければならず、どうしても手間とそれなりの費用がかかります。これについてはいろいろな手口がありますが、いずれにせよ架空売上を行うのは、手間と費用をかけてでも粉飾を行わなければならない、公認会計士が関与するある程度大きな企業となります。
 発覚してしまっては元も子もありませんので、会計監査の網をかいくぐらなければなりません。そのときに問題になるのはファイナンス、すなわち架空売上により計上した売掛金の回収です。もちろん架空ですから回収できないのですが、これをナントカ正規の取引に見せようと知恵を絞ります。

資産の過大計上について

 取得原価主義会計の下では、『原価法』の名の下で、結果として資産の過大計上が行われることがありました。客観的にみて強制評価減が必要であっても、何らかの理由をつけて評価減を行わないケースは少なからず横行していました。会計基準が時価主義に傾斜してゆくにつれ、あからさまな評価減逃れはなくなりつつあるのではないかと思います。基準が厳格になるにつれ、『粉飾めいたもの』の存在する余地はなくなっていくのです。
 資産の過大計上にもいろいろな手口があります。単に価値の下落した資産を取得原価で計上しているケースを明確に粉飾と決め付けるのは難しいのですが、明白な作為がある場合には、粉飾といわざるを得ません。


負債の過小計上

 大会社が簿外負債を隠蔽するというケースはなかなか考えにくいのですが、保証予約や経営指導念書といった『保証類似行為』を開示しない手口はかなりありました。これは以前は必ずしも取り扱いがはっきりしていたわけではなかったのですが、そもそも保証の相手方にとって有利であり、開示義務もある債務保証をあえて結ばないわけですから、隠蔽の意図は明白なのです。
 一方中小企業では代表者がどこかから融資を受け、それを会社につぎ込むケースがあります。これは粉飾の意図よりむしろ会社維持のためにやむにやまれずおこなうものですが、それが発覚した際にはのっぴきならなくなっているケースが殆どです。


会計帳簿の記録と異なる決算書の作成

 こうなってしまうと、粉飾も何もないのですが、決算書の帳簿記録と異なる数値を記入して公表するケースもあります。先にお話したように、大企業でも起こりうるのですが、中小企業の場合、この手の決算書を提出するケースがあります。費用が殆どかからない、手軽な方法なのです。
 大体経理の担当者が、誰にも相談できずに頭をひねって作るのですが、何から何までうそで固めた決算書を作るのはとてつもなく大変なことですので、特定の科目だけうその数字を入れるのです。ところがこうした場合、他の科目とのつじつまを合わせるのが大変で、一度こうした決算書を作ったがために、経理担当者は毎期虚しい作業を繰り返すことになります。


具体的手口

 架空売上と資産の過大計上、負債の過小計上を分けて説明しましたが、実際のところああいった分類は講学上(説明のため)のもので、実際の手口を考える際には、簿記の仕組みを考えていただければ分かるように、これらが相互に絡み合ってきます。

押し込み販売

 押し込み販売は、粉飾の最も典型的なケースです。
 会計監査の手法に、『売上のカット・オフ・テスト』というものがありますが、これは期末直近の売上について、納品書、検収報告書、以後の請求書等を突き合わせて、売上が実現しているかどうかを確認するものです。決算期末が迫り、目標売上高が達成できずに押し込み販売に走るというのは、昔からある事なのです。
 私がある会社の公開準備に携わっていたころ、何気なく「期末月の売上伝票を2〜3枚持ってきてください」と頼んだところ、しばらくして経理部長が担当者と共に現れ、「杉本さんすみません」といって、部長が担当者に頭を下げるよう促した、ということがありました。こういったまじめな会社ならいいのですが、逆にこちらから検収報告書がないことを指摘して売上を取り消すケースのほうが実際のところ多かったと記憶しています。
 会計監査における売上と売掛金にかかる監査手続きは、他の勘定科目に比べて厳格なもので、きちんと監査が行われていれば、通常の押し込み販売は防止できるはずです。
 では、会計監査の目を潜り抜ける押し込み販売とはどんなものでしょうか?
 ここでのキーワードは監査範囲ファイナンスです。
 連結財務諸表が作成されていなかったころは、子会社への押し込み販売が最もやりやすい方法だったわけですが、連結財務諸表が制度化されてからは、いわゆる連結はずしを行った実質子会社への押し込みという形になっていきました。連結の範囲がさらに広がると、サードパーティー(まったくの第3者)への押し込みといったケースになって来ているようです。但しこの場合、相手方も商売ですので、粉飾会社はある程度の手数料を支払うことになり、粉飾のコストがかかってしまう、という非常にばかげた話になります。
 次に問題になるのがファイナンスです。押し込んだままでは売上の相手勘定である売上債権が膨らんでしまい、怪しまれる恐れがあります。しかしそもそも架空の売上ですから、売上金の回収などできるはずがありません。そこで債権を回収したことにする方法を考えるわけです。パターンとしては
     @期首に売上を取り消す(普通は発覚します)
     A売上債権の回収サイトを延ばす(極端に延ばせば、怪しまれます)
     B裏保証で得意先に借入を起こさせ、その資金で回収する
     C予め何らかの方法で得意先に資金を提供し、正常な代金回収を装う
といったものがあります。実はこのCを大掛かりにやられた場合には、殆ど見つけることは困難です。いずれにしても、発覚した場合は、申し開きはできません。
 不動産や休眠会社の株式をを高値で売りつけ、A、Bの方法で正常な代金回収を装うケースもあります。この場合、実際の売買の内容をみただけで粉飾の意図は明白です。


飛ばし

 山一證券の破綻に始まる第2次金融危機の際の粉飾決算事件では、この『飛ばし』がまさにキーワードだったのですが、この『飛ばし』自体バブルの後始末的な要素がたぶんにあり、後のクレディ・スイスに対する行政処分や関連規定の整備により、最近ではあまり聞かれなくなりました。
 簡単に言えば、貸借対照表上の、強制評価減の対象になるような不良資産を投資勘定(ファンド)に付け替えてしまうことなのですが、始末が悪いのは、ケイマン諸島、ヴァージン諸島などのタックス・ヘイブンの信託ないしSPCがファンドの対象となっていたことです。
 ファンドに不良資産と国債をミックスして分母の額を増やし、時価が回復する可能性があると主張するのが『まやかし』以外のなにものでもないことは誰でもわかることなのですが、大仰な舞台に幻惑されてしまい、取り扱いがあいまいになっていたのです。
 舞台が大仰なだけに、無駄な手数料も多くかかった手法です。


裏保証

 これもバブル期に流行ったものなのですが、『保証予約』、『経営指導念書』等の名称で、実質的に債務保証と同様の効果を持った契約を結んでいるケースです。
 ゼネコン等による工事の完成保証が問題になりましたが、事実上の債務保証のケースもあります。裏保証で実質的な関連会社(もちろん連結対象外のケースです)に借入を起こさせ、押し込み販売の代金をその融資金で回収する、といった場合、架空売上のところで書きましたように、関連会社の側に全く信用の基礎がないとした場合、作為は明らかです。

 TOP






バナー